吉田秋祭り(愛媛県宇和島市吉田町) コラム
町中に広がる蜜柑畑が紅色を帯び始めてきた。草木は紅葉し始め、稲穂も実る。遠くから練り車の軋む音と三味線の音色が交差する吉田秋祭り。五穀豊穣や家内安全の祈願に手を合わす氏子や見物客。私の住む愛媛県宇和島市吉田町では、吉田藩創設(1657年)後まもなく始まった(1664年)とされる南山八幡神社の秋祭りが、十一月三日に行われる。  祭りは早朝五時から始まる卯の刻相撲、神輿の蔵出し、御霊代(みたましろ)を神社神輿に移す儀式。そして七時二十分頃境内での鹿踊りの奉納、神輿を宮出して旧家中町や旧町人町にお迎えする。神輿は陽光で金色に輝き、屋根の上に留まっている鳳凰が羽ばたく気配を感じる。祭り神幸行事は決められた道順で町内を巡るが、この祭りは歩行練り、御船と続き、福神や英雄達の人形が乗った八台(内1台は展示)の練り車が、お囃子と練り唄を流し町中を賑わせる。その後には、鹿の子、牛鬼が神輿を先導する。 藩政時代から変わらない町割りを練る吉田秋祭り、この練り物は多様性が豊かで、祭り道具や祭り運営等も連綿と引き継がれている特徴がある。例えば、魚棚一丁目の練り車の幕は貴重な長崎刺繍が施され、吉田藩御用商人「法花津屋」高月家が西日本に手広く商売をしていたことが由来している。また、大世話番や丁頭等の役付けも変わっていない。さらに祭礼絵巻が残っており、その数は少なくはない。決して観光色の強い祭りではなく、歴史文化、伝承性等は屋台・山車分野の祭り分野においては、中国・四国地方では希有な祭りと注目されている。 普段は人通りの寂しい町並みだが、この祭りの日には大勢の見物人で沸き立つ。その賑わいを神様にお見せすることで喜んでいただき、私達の感謝を伝える。そして繁栄や安寧を願う。今年は「七月西日本豪雨災害からの復興」を願う祭りとなる。神輿が、立間地区の被災地三ヶ所に渡御して災いを祓うようだと聞いている。町全体に祭りへの感謝と願いが溢れて、そして活気へと変貌する。  


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